不動産投資の賃貸物件建築で必要な法律知識!管理の法律や民法も解説

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不動産投資を行う賃貸物件を建築するにあたり、必要な法律知識をお持ちの方はかなり少ないと思います。

しかし大まかな概要だけでも把握しておかないと、業者との打ち合わせがスムーズに進まなかったり、最悪は違法建築になったりする可能性もあります。

そこで今回は不動産投資の賃貸物件建築で必要な法律知識を、分かりやすくまとめてお伝えします。

これを読むと、賃貸物件の建築に必要な法律知識の概要を手短に把握できます。

近年改正された民法の賃貸物件にかかわる部分や、家賃滞納などトラブル回避に役立つ法律知識も解説していますので、ぜひ最後までお読みください。

 

賃貸物件建築で必要な法律知識

賃貸物件を建築するために守る建築基準法は、建物の構造や設備、用途、敷地などさまざまな基準を定めています。

中でもこれから紹介する7つは特に賃貸物件の建築に関わりが深い項目です。

もちろん実際に建築する際は、依頼した建築会社や設計士が法律をしっかり確認したうえでプラン作成や許可申請を行います。

しかし所有者の方も把握しておくと法律制限にあたるような希望をせずに済み、建築会社の説明を理解しやすくなります。

さらに今後投資対象を広げ中古の1棟物件を購入するようになったときにも、違法物件を購入してしまうリスクを防ぎやすくなります。

 

容積率

容積率

容積率は敷地面積に対して占める、建物の延べ床面積(各階の床面積の合計)の割合です。

計算式:容積率=延べ床面積÷敷地面積×100

容積率には都市計画で定められる指定容積率と、建築基準法で定められる基準容積率という2つの制限があります。

 

指定容積率

指定容積率は地域によって定められており、低層住宅の地域では小さく、人が集まるような商業地域では大きくなります。

たとえば高層ビルが立ち並ぶところや、大きな通り沿いの商業地などは400〜500%と大きくなる傾向です。

逆に人が多く集まることの少ない住宅地などは150〜200%程度です。

 

基準容積率

建築地の前面道路の幅員などによってさらに制限がかかることがあり、40%や60%といった係数を道路幅にかけたものが基準容積率です。

例:4.5m(前面道路幅)×40%=180%

指定容積率と基準容積率のより厳しい方が、建築地の容積率制限になります。

 

建ぺい率

建ぺい率

建ぺい率は敷地面積に対して、建築面積(建物を真上から見たときの面積)が占める割合です。

計算式:建ぺい率=建物面積÷敷地面積×100

建ぺい率は用途地域によって30〜80%の制限があります。

敷地的な余裕を持たせたい住宅地では60%前後、できるだけ敷地を有効活用したい商業地などは80%前後となっています。

また角地や防火地域などに該当すると緩和されることもあります。

 

用途地域

用途地域

地域には計画的に街づくりを進める「都市計画区域」があり、さらにその中にすでに市街地を形成していたり、今後優先して市街地化を進めたりする「市街化区域」があります。

この「市街化区域」の中に、住みやすさや景観などを考慮した21種類の「地域地区」があります。

そして「地域地区」の中の一つに、市町村によって以下の13種類の使いみちに分けられた「用途地域」があり、用途地域ごとに建てられる建物の種類などが制限されます。

・13種類の用途地域

・住居系

第一種低層住居専用地域

第二種低層住居専用地域

第一種中高層住居専用地域

第二種中高層住居専用地域

第一種住居地域

第二種住居地域

準住居地域

田園住居地域

・商業系

近隣商業地域

商業地域

・工業系

準工業地域

工業地域

工業専用地域

 

高さ制限

高さ制限

日当たりの確保や風通し、建物同士が圧迫しないことなどを目的に、用途地域や都市計画によって建物の「高さ制限」が定められています。

高さ制限には主に次の4つがあります。

・絶対高さ制限

第一種、第二種低層住居専用地域に適用され、10mまたは12mの制限があります。

一般的なアパートやマンションの3〜4階建ての高さに相当します。

・道路斜線制限

道路の明るさや環境確保を目的としたもので、前面道路の反対側の境界線から該当敷地に向かい一定勾配で立ち上がる斜線内に建物を収める制限です。

勾配は用途地域によって異なります。

・隣地斜線制限

隣地の日当たりや住環境を守るための制限で、20mの高さを超える部分からの制限です。

・北側斜線制限

北側隣地の日当たりを守るための制限で、隣地との境界線または前面道路の真北方向からの距離に応じて、建物北側の高さを制限します。

 

接道義務

接道義務

接道義務は都市計画区域と準都市計画区域にある制限で、「建築物のある敷地は幅員4m以上の道路に2m以上接していなければならない」というものです。

これは災害時の避難経路や、緊急車両などの進入を確保するために設けられています。

ただし大規模建築物(3階以上の建物、延床面積が1,000㎡超の建物など)や、特殊建築物(不特定多数の人が利用する建築物や特殊な用途を持つ建築物)では、規模や用途によってさらに厳しい制限が加えられることもあります。

マンションでは敷地周囲の状況によって緩和措置もあったり、逆に自治体によって独自の基準を設けていたりする場合もあります。

また敷地ごとに特例を設けられていることもあり、土地購入の際は十分に確認する必要があります。

 

防火地域・準防火地域

防火地域・準防火地域

建築基準法は火災の危険を防ぐため、地域を分け建物に耐火仕様などの規制を設けています。

この地域には「防火地域」「準防火地域」「22条区域」があります。

・防火地域

防火地域は最も厳しい建築制限が設けられ、特定の建物以外は耐火建築物にする必要があります。

・準防火地域

準防火地域は火災防止のため、比較的厳しい建築制限が設けられています。

4階以上の建物は耐火建築物にしなければならず、それ以下の建物でも面積によって耐火建築物や準耐火建築物にする必要があります。

・22条区域

22条区域とは防火地域、準防火地域以外の市街地で、火災の延焼を防ぐため屋根を不燃材料にするなどの制限があります。

 

耐震基準

耐震基準

建築基準法では地震が起きた際に、建物が容易に倒壊しないよう揺れに対する強度の基準を定めています。

最新の基準では震度5程度の地震ではほとんど損傷しないレベルで、震度6強から7程度でも崩壊・倒壊しない耐震性が求められます。

これまでに耐震基準は何度か改正されており、たとえば1981年改正以前の旧耐震基準は震度5程度の地震では倒壊しないものの、それ以上の震度について規定がありません。

このようにどの年代の耐震基準にあたるかで耐震性が異なるため、中古の投資物件を購入する際の一つの目安となります。

 

投資物件を維持管理する法律

建物は規模や用途、地域によって、定期的な点検や報告が法律によって義務付けられています。

特にマンションのように多くの人が集まる建物は、安全性などを確保するため入念な点検が求められます。

一般的には建物の管理会社を通じ、専門業者による有償点検を行うことになります。

 

法定建築設備点検

法定建築設備点検

不特定多数の人が使う特殊建築物では、定期的な建物の点検を行う「法定建築設備点検」が義務付けられています。

建物のある場所や規模によって異なりますが、年1回の有資格者による各種設備などの検査を実施し、その結果を特定行政庁に報告しなければなりません。

主な点検箇所は、換気設備や排煙設備、非常用設備、給水排水設備、エレベーターなどです。

 

特殊建築物定期調査報告

特殊建築物定期調査報告

特殊建築物は3年に1度行う、「特殊建築物定期調査報告」も義務付けられています。

これは防火区画が適切に設定されているかや、避難階段などの安全対策の状況、さらに建物の構造や外部の劣化状態などを、調査資格者が調査し指定行政へ報告します。

 

消防法

消防法

消防法では万一の火災に備え、消火設備や警報設備、避難設備、消防防水など、消火活動や避難に必要なものが正常に機能するか年に2回有資格者が点検するよう定めています。

さらに年に1回実際に動かし不具合がないか確認することも課せられており、これらの結果を所轄の消防署へ届けます。

消防法などにかかわる点検などについては下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ併せてご覧になってください。

「不動産投資物件の消防法を徹底検証!違法設備による罰則を防ごう」

http://fudosan-archi.com/2020/05/05/real-estate-investment-property/

「不動産投資物件の消防点検費の内訳と費用相場を詳細解説」

http://fudosan-archi.com/2020/05/11/real-estate-investment-property-2/

「消防設備はなぜ必要?不動産投資物件における違反リスクと対策を解説」

http://fudosan-archi.com/2020/05/10/firefighting-equipment/

 

賃貸物件における民法改正のポイント

令和2年に民法が改正され、賃貸物件にかかわる部分にも大きな変更がありました。

実際に運営を開始してからの法律ですが、収益への影響が大きいためぜひ目を通しておきましょう。

 

原状回復義務を負う範囲

原状回復義務を負う範囲

賃借人は賃貸の契約を終えたとき、通常の使用で生じた損耗や経年劣化については原状回復の義務は負わないと明記されました。

これまで必要以上の原状回復を賃借人に請求するトラブルが多く、それを回避するための改正です。

たとえば壁紙の日焼けや畳の擦り切れなどは通常の使用範囲であり、賃借人は原状回復の義務を負いません。

また退去時に行うハウスクリーニング費用は原則オーナーの負担となり、賃借人に費用を負担させる場合は契約時に特約で合意しておくなどの条件が付けられました。

原状回復については以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ併せてご覧ください。

「賃貸の原状回復の意味を知ろう!ガイドラインや事例で明快解説」

http://fudosan-archi.com/2020/04/09/meaning-of-restoration-of-lease/

 

追完請求権・代金減額請求権の追加

追完請求権・代金減額請求権の追加

これまで購入した物件に隠れた瑕疵(通常の注意を払っても気づかない不具合)があった場合、それを知ってから1年以内に売主に損害賠償請求ができました。

さらに契約した目的が果たされなければ、契約を解除できる権利もありました。

今回の改正では物件の交換や修繕を求める追完請求権と、これに応じない場合に代金減額が求められる代金減額請求権が加わりました。

 

隠れた瑕疵から契約不適合へ

隠れた瑕疵から契約不適合へ

従来は建物に隠れた瑕疵があると、購入してから定められた期間内であれば買主は売主に損害賠償や契約解除を求めることができました。

しかしたとえば雨漏りすることを購入前に知っていたとすると、隠れた瑕疵ではないため権利行使の難しい場合が発生していました。

そこで今回の改正では隠れた瑕疵かどうかは問われず、契約内容に適合するかどうかで判断するよう変更されました。

たとえば雨漏りがある物件で契約内容にその旨が示されていなければ、契約内容を満たさないとして解除や賠償請求ができるようになったのです。

 

賃借人の修繕権

賃借人の修繕権

これまで建物や設備の損傷は賃貸人の責任で修繕すると定められ、賃借人が許可なく修繕することは認められていませんでした。

しかし今回の改正で賃借人が賃貸人へ修繕を求めても応じなかった場合、賃借人自ら修繕を行いその費用を賃貸人に請求できることが認められました。

賃借人に物件の損傷を直され想定以上の高額請求を受けないよう、普段から建物の損傷などは素早く直すようにしましょう。

 

不具合での家賃減額義務

不具合での家賃減額義務

これまで建物の一部が滅失するなどで使用できなくなった場合、賃借人は家賃減額を請求することが認められていました。

逆に言えばこの請求があったときにのみ賃貸人は家賃減額に応じる必要があり、請求がなければ減額しなくても良いという状態でした。

改正後の民法では建物に使用上の不具合があるなら、賃借人からの請求がなくても家賃減額する義務を負うと定められました。

また以前は「滅失など」という程度の大きな条件でしたが、改正後は「使用及び収益ができない」状態と、故障など軽度のものも含まれるようになったため注意が必要です。

 

個人保証の限度額明記

個人保証の限度額明記

改正民法では保証人が個人の場合に、保証限度額を定めないと保証契約が無効になると改められました。

これまでは限度額を定める必要がなかったため、建物を大きく破損して多額の修理費請求が発生しトラブルになるケースがありました。

今後は限度額を明記して納得したうえで保証人になるため、支払い拒否などを未然に防ぐことが期待できます。

 

所有権移転と家賃請求権

所有権移転と家賃請求権

これまで所有権を移転する際、家賃の支払われたタイミングによっては新旧どちらの所有者に受け取る権利があるかで揉めることがありました。

新たな民法では家賃を請求できる権利は登記簿上の所有者と定められ支払われた家賃を受け取るタイミングが明確になりました。

このため入居者のいる物件を購入した際は、できるだけ早く所有権移転登記を済ませた方が良いことになります。

 

よくあるトラブルと法律知識

賃貸運営を始めてから必要となる法律知識を、具体的なトラブルを例にして解説します。

※法律の判断にはさまざまな条件が加わるため以下はあくまで一例とし、実際の対応は行政や弁護士などに相談したうえで判断するようにしてください。

 

家賃滞納の対処

家賃滞納の対処

何ヵ月にもわたり家賃滞納をされた場合は一定の期限を定めて督促したうえで、支払わなければ契約解除する旨を通知することが法律で定められています。

具体的には内容証明郵便で、滞納家賃の額や支払い期日、振込先、支払わない場合は契約を解除する旨を伝えておきます。

期日までに家賃が支払われず退去する気配もないようなら、速やかに契約を解除してできる限り裁判にならずに退去してもらうことを考えましょう。

裁判を起こせば退去してもらうことは簡単ですが、時間がとてもかかりその間の家賃収入が失われるからです。

速やかに退去してもらうためにも滞納家賃の回収はあまり期待せず、家賃滞納の対処に明るい弁護士に早めに相談しましょう。

 

孤独死の賠償請求

孤独死の賠償請求

単身世帯の増加や高齢化などによって、賃貸物件での孤独死が増えつつあります。

特に部屋の中で死亡され発見まで時間がかかると、物件の汚損が激しく修復に高額な費用がかかることもあります。

またしばらくは新たな入居者が見つからず、家賃収入が途絶えてしまうことも考えられます。

しかし病死などの場合は、こうした損失を亡くなった入居者の相続人などに賠償請求することは難しいのが現状です。

賃貸物件の原状回復費用を賃借人などの責任とするには、部屋を傷めたことに故意や過失があったことが条件になります。

しかし病死や自然死などでは、亡くなった本人に故意や過失があったと裁判で認めてもらうのは極めて困難です。

そのため入居者が死亡した際の原状回復費や家賃の損失を補償する、火災保険の特約に加入しておくことがお勧めです。

一方で自殺の場合はその原因が故意であるため、相続人などに賠償請求できるケースが多く見られます。

実際には因果関係などを十分に精査する必要があるため、取り扱い経験のある弁護士に早めに相談しましょう。

入居者の死亡による損傷などを補償する火災保険については以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ併せてご覧ください。

「不動産投資で火災保険の活用事例!補償対象とオーナー向け特約も解説」

http://fudosan-archi.com/2021/03/03/special-contract-for-owners/

 

まとめ

まとめ

不動産投資の賃貸物件を建築するうえで、最低限の法律知識は必要です。

何も知らないようでは建築会社との打ち合わせがスムーズにいかず、最悪の場合は違法建築をしてしまう可能性もあります。

専門家ほど詳しくなる必要はありませんが、ご紹介した法律知識の項目と内容についてできるだけ把握するようにしましょう。

ただし法律は適用するにあたりさまざまな条件があり、そこまで所有者の方が理解することは困難です。

実際の建築は法令に則って設計施工する信頼のできる業者に任せ、さらに投資物件の建築に明るいコンサルタントなどと相談しながら計画を進めると安心できるでしょう。

【記事監修】 山田 博保

株式会社アーキバンク代表取締役/一級建築士
建築業界での経験を活かした不動産コンサルティング及び建築、不動産に関わるWEBメディアを複数運営。Facebookお友達申請大歓迎です。その他、建築や不動産、ビジネスモデル構築に関するコンテンツは公式サイトより。

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