投資物件での消防法を軽視していると、設備の劣化が積み重なり高額な修繕費が必要になるだけでなく、懲役や罰金と言った厳罰を受ける可能性もあります。
このため投資家の方も消防設備や点検について最低限の知識を持つことが、堅実な物件運営には必要です。
そこで今回は、消防法で定められた消防設備や、点検や報告の義務についてわかりやすく解説します。
所有する物件がいつの間にか違法状態になってしまい、思わぬ刑罰を受けることにならないよう、ぜひ最後までお読み頂き活用してください。
投資物件の消防法は非常に重要
消防法とは多数の人が出入りする対象物=建物において、火災の発生防止と被害拡大を軽減することを目的として、消化器や非常警報設備などを設置し、さらに定期点検と報告を定めた法令です。
これは建物の所有者などに課された義務であり、不動産投資においてもその責任は厳しく問われます。
もし違反建物を所有し是正にも従わないと、1年以上の懲役又は100万円以下の罰金という刑罰を受けることになります。
過去に違反建物で火災が起き、所有者が刑事責任を問われ執行猶予付き懲役刑の判決が下った例もあり、安易に捉えていると大きな損失と刑罰を受けることになるでしょう。
所有する投資物件が消防法の基準をしっかりと満たしているか、改めて確認するようにしてください。
消防設備点検の概要
消防法では対象建物に詳細に定められた消防設備の設置と、定期的な点検、報告を義務付けています。そこで初めに設備点検の頻度と主な消防設備について解説します。
消防設備点検の頻度
点検には機器点検と総合点検の2種類があり頻度と点検内容が異なります。
機器点検は6ヶ月に1回の点検を行い、消防設備の設置状態や劣化、破損の有無などを外観から確認し、場合によっては簡単な動作確認も行います。
一方の総合点検は1年に1回の点検となり、消防設備を実際に動かし十分に機能するか、故障が無いかを確認します。
主な消防設備
次に主な消防設備をご紹介しますが、これらは建物規模、用途などにより必要なものが異なるため、あくまで一例と捉えてください。
また過去に発生した大火災を機に、150㎡以下の小規模の火器使用飲食店でも消火器の設置が義務付けられたような、法改正により設置条件が変わることも珍しくないため、定期的な見直しが必要になるでしょう。
消火器
消化器は過去に老朽化した消化器が破裂し負傷者が出る事故が続いたため、外観上で痛みなどがないかの目視点検の他に、有資格者による分解しての点検が法令に組み込まれました。
この分解点検は現在主流の蓄圧式消火器では製造から5年のタイミングで行われますが、中には費用が高額になり新品に買い替えた方が安価に済むというケースもあります。
また使用期限とされる10年経過後は耐圧性能点検が必要になるなど、いずれも維持コストがかかる設備になっています。
特に10年以上のものは数がまとまると点検にせよ買い替えにせよ高額な出費となるため、所有される物件の交換時期は把握しておきましょう。
自動火災通知設備
自動火災通知設備は各室の天井に付いているセンサーで、熱や煙を感知して音や通知で火災を知らせる設備です。
こちらも消防設備士などによる有資格者の点検が義務付けられており、一つの部屋で火災が発生すると同一階全ての部屋で警報が鳴るため、被害の拡大防止には非常に重要な役割を持ちます。
交換の目安は煙感知器が10年、熱感知器が15年、各戸の感知器の通報を受ける集合の受信機は15〜20年となっています。
避難器具
避難に使うための器具は、伸縮はしごやロープで降下する緩降機、筒状の袋の中を滑り降りる救助袋など様々なタイプがあり、建物面積や用途に加え各階の収容人数や避難階段の数などによって、設置条件が決まってきます。
点検は劣化や故障、変形が無いかはもちろん、周囲に物が置かれて使いにくくなっていないか、標識はきちんと見えるかなどを点検します。
さらに材質などにも細かな基準があるなど、種類が豊富な故に維持管理が複雑になりやすいです。
また建物と一体構造になっている物がほとんどのため、単価が比較的高めで交換の際は高額な費用がかかることが多いです。
誘導灯
火災時の煙で避難路がわからない場合に誘導するための、緑色の背景に人の形が入った四角い照明が誘導灯です。
避難口だけでなく大型の建物では途中にも設置されており、非常時に確実に点灯するかを点検します。
本体の適正交換時期は8〜10年とされていますが、内部の電球や蓄電池は当然それよりも短い交換サイクルとなるので注意してください。
非常警報設備
大きな赤の円形で囲まれたボタン、赤の表示灯、サイレンやベルの音を出す音響装置が一体になっているのが非常警報設備でこちらも動作確認の点検を行います。
15年が交換の目安となっていますが、開放の廊下にあり紫外線や吹込みの雨などを受けていると、老朽化が早まります。
大型の建物では複数台が連動式になっているもケースもあり、数が多ければ交換費用は高額になるでしょう。
連結送水管
火災時の消火のために消防が使うホースをつなぎ、水を送り出すのが連結送水管で、設置から10年経過した時とその後3年ごとに水圧をかけた試験を行います。
またホースが設置されていれば製造から10年経過時と、その後3年ごとの耐圧試験が義務付けられています。
規模にもよりますが5階以上で延べ床面積が6000㎡以上や7階以上の建物などでは設置することが定められており、中規模程度のマンションでも設置義務が出てきます。
スプリンクラー
天井から火災発生の熱により作動し、散水して初期消火を行うのがスプリンクラーです。
消防法では共同住宅なら11階以上の部分に設置が義務付けられており、年一回の総合点検でチェックされます。
ただスプリンクラーは避難経路の種類や内装材によっては免除されることもあり、該当の階数でも設置されていない建物もあります。
一般的な耐用年数は18〜20年となっており、設置されている建物が中〜高層であることを考えると、交換の際の費用はかなりの額になる可能性があります。
点検実施の報告義務
消防法では有資格者による消防設備点検実施の結果を、該当の消防長あるいは消防署長へ報告することが義務付けられていますが、この後解説する特定防火対象物と非特定防火対象物とでその頻度が異なります。
報告書の作成も点検実施の設備業者で行われるのが一般的です。
・特定防火対象物
1年に1回の報告
・非特定防火対象物
3年に1回の報告
特定防火対処物と非特定防火対象物
消防法で定める建物は、その用途などによって特定防火対象物と非特定防火対象物に分けられます。
特定防火対象物は不特定多数の者が利用する防火対象物で、消防設備点検の報告頻度が細かくなるだけでなく、設備の設置条件も厳しく定められています。
また建物の規模や構造によって、上記の消防設備点検の他に原則1年に1回の防火対象物点検を実施し消防長または消防署長へ報告することも義務付けられ、より厳重な管理が求められるようになります。
- 主な特定防火対象物
飲食店、物品販売を営む店舗、病院、ホテル、宿泊所、映画館など
- 防火対象物点検の主な項目(一部)
・防火管理者の選任状況
・消火や避難の訓練実施状況
・カーテンなど防炎対象物の防炎性能表示確認
・防火扉や避難階段の障害物の有無確認
一方で非特定防火対象物は、社員や従業員など決まった者が利用する建物になり、消防設備の各種条件がある程度緩和されます。
- 主な非特定防火対象物
共同住宅、工場、事務所、学校、図書館など
ただ主な対象物として挙げた建物用途でも階数や面積、構造などでさらに細かく条件が付けられており、共同住宅であっても特定防火対象となったり、飲食店でも特定防火対象物にならなかったりするため注意が必要です。
この区分けは用途だけでは単純に判別できないため慎重に判断しなければなりません。
防火管理者の選任
防火管理者とは消防法で定められた、防火や設備管理、消火活動を行う責任者となる国家資格者であり、面積や収容人員によって細かく分類された指定の建物では、この防火管理者を選任する必要があります。
例えばアパートなら50人以上の収容人員規模で防火管理者の専任が必要になり、さらに建物の面積によって防火管理者の種別(甲種、乙種)が変わってきます。
怠ると6月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられるため、選任が行なわれているかを確認するようにしましょう。
建物規模別の点検費用相場
消防設備点検の費用は分譲マンションであれば修繕積立金から、一棟物件のマンションなどでは所有者の負担となります。
タイミングや規模によってはその負担額は大きく、事前の計画作成と資金準備が必要となるでしょう。
また分譲マンションでも積立金が不足している物件は追加で集金の可能性もあります。
以下に1棟物件のマンションで多い費用相場を規模にご紹介します。
機器点検と総合点検を各1回と消防長や消防署長への報告1回をセットにした場合の、点検設備業者への依頼相場となっています。
費用は建物規模だけでなく用途や消防設備の数、劣化状況によっても大きく変わるためあくまで目安としてください。
建物面積の目安(3DKでの戸数目安) | 費用相場 |
700㎡(10戸) | 50,000円〜 |
2,200㎡(30戸) | 100,000円〜 |
3,200㎡(50戸) | 150,000円〜 |
5,300㎡(80戸) | 200,000円〜 |
7,000㎡(100戸) | 個別相談 |
※設備修理、交換費用は別途
飲食店のある共同住宅物件は注意
共同住宅部分が主のマンションでも、1階に飲食店などのテナントを設けている場合は注意が必要です。
店舗より共同住宅が大きくかつ店舗が50㎡を超える場合は、建物全体が特定防火対象となり点検の対象範囲や頻度、消防設備の条件などが一気に厳しくなるからです。
共同住宅のみで非特定防火対象物のマンションと比べ、消火設備や点検、報告の義務が非常に大きな負担になり、維持コストが高額になりやすいです。
ただどちらの扱いになるかは専門的な知識が無いと判断が難しく、管理会社でも正確に把握していないケースがあります。
既に所有していたりこれから購入したりする物件に飲食店があるなら、意図しない法令違反にならないよう正確に確認することをお勧めします。
維持管理計画を立てリスクを回避
各種設備の設置条件は消防法により階数や面積、用途や内装材、避難経路など様々な条件で複雑に取り決められており、一般投資家の方が正確に把握するのは非常に困難です。
実際にどのように維持管理するかは、消防設備の点検や報告の業務を行う専門業者に相談した上で、物件ごとに計画していくことになります。
また当然ながら劣化や故障があれば修理し、交換時期を経過した設備は入れ替えになるため、その費用を確保しておくことが必要です。
特に一棟所有のアパートやマンションの場合は、オーナーがしっかりと時期を把握し計画を立てることがリスクの回避に繋がります。
まとめ
投資物件の消火設備を整えることは、法令遵守だけでなく入居者の安全を守り物件を永く維持していく上で大変重要です。
そのためにも定期的な点検はもちろんしっかりと交換や修理を欠かさず行うべきでしょう。
ただ必要と定められている設備は建物の面積や階数、用途や構造などによって複雑に定められています。
的確な判断と長期的な計画の立案、実際の点検や報告、交換なども含め、正当な価格で確実にサポートしてくれる専門業者を探し、まずは相談してみることをお勧めします。
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