マンションの大規模改修工事費用の現実!実際の実施年数も徹底調査

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マンションの大規模改修工事はその物件価値を判断する上で非常に重要です。

特に適切な時期に適切な工事を行っているか、さらには修繕積立金残高や将来発生する工事費用を事前に把握することは、マンション投資のリスクを引き下げてくれるでしょう。

そこで国土交通省が行った「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」を参照しながら、大規模改修工事の現実を購入判断のポイントに絞って解説します。

また記事の後半では高層や木造など物件タイプごとの大規模修繕における注意点もご紹介しているので、ぜひ最後まで目を通してください。

 

大規模改修工事の必要性

大規模改修工事とは主に建物の耐久性と安全性の維持、そして入居者の利便性向上などを目的としています。

しかし様々な事情で適切な周期で改修が行われないと、建物の老朽化が早まって痛みや汚れが目立つようになり、新たな入居者が集まりにくくなってしまいます。

また照明やインターホンなどが故障し、使い勝手が悪くなれば退去を促すことになり、空室が増えますます次回改修の資金が不足する悪循環に陥っていきます。

また売却時にも実施時期や工事内容はチェックされる可能性が高く、大規模改修は決して購入時だけの問題ではありません。

物件購入の際は必ず、その実施周期や内容、さらに今後発生するであろう工事費用などをしっかりと把握した上で検討すべきと言えるでしょう。

 

大規模改修工事の時期・費用の現実

大規模改修工事が現実的に行われている時期と将来的に発生する費用は、物件を判断する上で重要な指針となります。

そこで平成29年に国土交通省が行った「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」の内容を見ながら解説をしていきます。

これは全国の大規模改修工事に関する実績を持つ設計コンサルタントに、過去3年間の業務を調査したものでかなり実態に即したデータとなっています。

参照リンク

国土交通省:マンション大規模修繕工事に関する実態調査を初めて実施
https://www.mlit.go.jp/report/press/house06_hh_000154.html
http://www.mlit.go.jp/common/001234283.pdf

 

工事時期

大規模改修工事は一般的に12年周期で行われることが理想とされていますが、実際にはどの程度の築年数で行われているのか、各工事回数の実施割合を見ていきましょう。

●1回目      

築年数 実施割合
11~15年 64.9%
16~20年 24.3%
21~25年 2.1%
26~30年 1.5%
31~35年 2.3%
36~40年 1.1%
41年以上 2.7%

調査によると20年目までに9割近い物件が大規模改修を行っており、しかも最も多いボリュームゾーンが理想とされる12年周期を含む11〜15年となっています。

これらのことからこの年数範囲で行われているかどうかが、物件判断の一つの判断基準となります。

逆にこれ以上経過しても1回目が行われていないなら、平均よりも長く改修が行われていない物件と言え、修繕積立金不足や所有者の意見がまとまらないなど、何らかの問題を抱えていると推測できます。

・2回目

築年数 実施割合
11~15年 0%
16~20年 1.6%
21~25年 20.5%
26~30年 44.2%
31~35年 20.9%
36~40年 7.6%
41年以上 5.2%

2回目は26〜30年が最も多く、1回目から12年程度経過して行われる物件が多いことがわかります。

この時点で、もし2回目の改修工事が行われず、しかも時期も決定していないなら、エレベーターや給水排水配管設備など2回目で行うことが推奨される工事が30年を超える可能性が高く、老朽化による突発的な破損の恐れが出てきます。

また1回目で先送りされた工事があれば、それらはさらに程度が悪化していくことも重なるため、この2回目の工事の有無は1回目より慎重に精査する必要があるでしょう。

・3回目

築年数 実施割合
11~15年 0%
16~20年 0%
21~25年 0%
26~30年 2.6%
31~35年 14.6%
36~40年 35.1%
41年以上 47.7%

およそ半数が31〜40年に行われており、残り半数が41年以上経過して行われています。

特に推奨周期12年の3回目である36年目付近で大規模修繕が行われているなら、工事内容にもよるが建物状態としては良好な物件と言えます。

また41年以上で行われていた物件でも念入りな大規模改修が3回目で行われ、そこからの経過年数が浅ければ直近で大掛かりな補修工事が発生することは考えにくいでしょう。

むしろ入居者の年齢層や修繕積立金残高を考慮すると、3回目が行われている時点で建物維持に前向きな物件であることがわかります。

もちろん3回目が行われていないなら、2回目からの経過年数に比例して建物損傷のリスクが高まることを忘れてはなりません。

 

マンション規模別の費用相場

続いて前項と同じ国交省の調査から大規模改修の工事回数ごとに、マンション規模(戸数)別の費用相場と一戸当たりの負担額を見てみましょう。

※300戸超のマンションは今回の調査結果では一括りにされており、規模の幅が広すぎるためここでは割愛しています。

・1回目

マンション規模(戸数) 最多価格帯上限額(万円) 一戸当たりの負担額(万円)
20戸以下 4000 200
30戸以下 4000 133
50戸以下 6000 120
75戸以下 6000 80
100戸以下 10000 100
150戸以下 15000 100
200戸以下 20000 100
300戸以下 30000 100

・2回目

マンション規模(戸数) 最多価格帯上限額(万円) 一戸当たりの負担(万円)
20戸以下 2000 100
30戸以下 4000 133
50戸以下 4000 80
75戸以下 6000 80
100戸以下 8000 80
150戸以下 15000 100
200戸以下 20000 100
300戸以下 30000 100

・3回目

マンション規模(戸数) 最多価格帯上限額(万円) 一戸当たりの負担(万円)
20戸以下 2000 100
30戸以下 4000 133
50戸以下 4000 80
75戸以下 6000 80
100戸以下 8000 80
150戸以下 15000 100
200戸以下 20000 100
300戸以下 25000 83

一戸当たりの費用負担は概ね100万円前後となっており、一般的な修繕積立金の月額である10,000円強が滞納なく積み立てられていれば、大きな追加発生はない計画になっています。

ただし途中で別の修繕に使われていることもありますので、物件購入の際は前所有者の滞納だけでなく修繕積立金残高を確認しておくことがポイントになります。

さらに修繕計画当時から現在の工事費相場が大きく値上がりしていれば、残高が計画通りでも追加費用徴収があり得ることも留意しておきましょう。

 

大規模改修の代表的工事内容

続いて大規模改修で行われる代表的な工事内容をご紹介します。

 

1回目(12年目安)

1回目で行われることが推奨されているのは主に以下の工事となっています。

①耐久性、防水性維持の工事

屋根・屋上防水

外壁塗装・タイル補修

各戸ベランダ床防水

廊下・階段の床防水

鉄部(手摺など)塗装

②電気設備工事

電灯設備

インターホン

各種アンテナ

③外構・付属設備工事

エントランス

車道・歩道・植栽

駐車場・駐輪場

特に①は後々の耐久性はもちろん雨漏り被害や欠落事故の防止、さらには震災時の安全性にも繋がり、万一の場合は人的被害をももたらすため最も重要な工事です。

前出の国交省調査でも実際に8割以上の物件が実施していることがわかるが、裏を返せば15%程度の物件では①の中のどれかが行われていないことになるため、その項目と理由をしっかりと確認しておきましょう。

一方②や③は管理会社や施工業者は1回目で行うことを推奨するが、工事費の上昇や修繕積立金不足などで2回目に先送りされることが多く、先の調査でも1回目では4割前後の実施に留まっています。

これらは緊急性の高いものではないが、いずれ傷んでくれば入居者の利便性に関わってくるため、1回目で行わないならその後個別の工事計画をしたり、2回目の計画に確実に盛り込んだりするべきでしょう

 

2回目(24年目安)

2回目の大規模改修では再び前出の①〜③を行った上で、次の工事項目が推奨されます。

④エレベーター

詳細点検と劣化部品交換

※施工から30年近いものや現行の安全技術基準制定(平成20年)前に設置されたものは交換が望ましい。

⑤給水排水配管設備

給水ポンプの交換

雑排水管、雨水排水管の清掃や交換

エレベーターや給排水管設備は日々誰しもが利用する上に、トラブルは突発的に発生するので故障の際の入居者の不満は非常に大きいです。

またエレベーターで万一人身事故が起これば退去者が続出し、風評などから入居者募集も難航する可能性も高くなります。

これらの他に1回目で行われなかった項目が、今回しっかり施工されたかも重要です。

特に①が行われないままで20年以上を経過するようであれば、確実に建物の構造的リスクが高まっていきます。

また2回目でも②や③が行われずさらに延期されるようだと、以降に発生した不具合は所有者負担で修繕するケースも考えられるので注意してください。

 

3回目(36年目安)

3回目の大規模改修では再度①〜③を行った上で、次の工事項目が推奨されます。

⑥サッシ周り

玄関ドアの枠や外側面

パイプスペースや点検口などの扉

サッシ周りは老朽化すると隙間風などによる住環境の悪化や、締りが悪いことでの防犯性能低下などが考えられるため、このタイミングでしっかりと改修を行うべきです。

ただし海の沿岸部は塩害で劣化が早まるため、2回目に行われていることもあり得ます。

またこれまでに延期されてきた①〜⑤までの工事があれば相当な老朽化が予想されるので、この3回目では確実に行っておきたいとろです。

中には小規模な改修が途中で行われている可能性もあるため、念のため確認をしておくと良いでしょう。

 

物件ごとで注意すべき点

ここでは大規模改修工事において費用が増額になりやすく、所有者負担になる可能性があるポイントをご紹介します。

 

追加費用が出やすい配管工事

大規模改修において突発的に追加費用が発生しやすいのが給排水管設備の工事が前回未実施だった場合です。

前回工事が行われてから20年以上経過し途中のメンテナンスも行われていないと、配管の劣化や腐食、詰まりなどが、かなり重症化して発見される可能性があります。

しかも大半の配管は隠蔽のため工事や準備に取り掛かった段階で発見され、後戻りができないため追加費用の発生となってしまいます。

直近の大規模修繕の履歴で給排水管設備工事が未実施だった場合は、次回の大規模改修では追加費用の準備をしておくと安全だと言えるでしょう。

 

中古は実施年と次回改修時期を確認

中古マンション購入を検討するにあたり、これまでにご紹介した大規模改修について確認しておきたい項目をまとめると以下の4点です。

①前回の大規模改修の工事時期

②その際に行われた工事、行われなかった工事

③次回の大規模改修時期が決まっているか

④決まっているならその工事内容(特に前回延期された工事の有無)

特に次回の工事時期が決定しているかは重要なポイントで、予定の状態だと話がまとまらず延期が繰り返されることも十分に考えられます。

くどいようだが前回延期された工事は時間とともに劣化がますます進み、突発的な補修工事が発生しかねないため、次回の大規模改修の計画はしっかりと確かめておきましょう。

 

ベランダのウッドデッキは撤去する

もし購入検討物件のベランダにウッドデッキや物置があるなら注意が必要です。

大規模改修の際はベランダの床に塗装などの防水工事を行うことになり、ベランダにあるものは移動や撤去を求められます。

しかしウッドデッキなどは簡単には動かせず、撤去や処分に費用がかかったりすることもあるからです。

ベランダは専用使用権はあるが、あくまで共用部分であり、原則はすぐに移動できない私物を置いたり、許可なく改修したりすることを禁じている物件がほとんどです。

前所有者や入居者に残されてしまえば大規模改修時に自己負担で撤去する羽目になる可能性が高いです。

もしベランダにウッドデッキがあるようなら必ず撤去されるかを確認するようにしましょう。

 

建物種類別の大規模改修工事ポイント

以下では建物種別によって独自に注意すべき代表的なポイントをご紹介します。

これ以外にも種別ごとに細かな注意点は数多く存在するため、できるだけ検討物件に即した大規模改修の情報も集めるようにしてください。

 

高層マンション

高層マンションの大規模改修で入居者に影響が大きいのが工事期間です。

規模にもよりますが最低でも1年以上、タワーマンションクラスになると2年近くかかることもあり、全期間ではないにせよ駐車場や共用部分が使えないといった不便が長期に発生し得ます。

また騒音や臭いも工事中は続くことになるため、特に日中在宅している入居者は不満が溜まりや退去を考えてしまいやすいです。

事前に掲示板での告知や、説明会は行われますが、賃貸入居者は関心が薄く「聞いていない」というトラブルも多くあります。

事前に所有者から入居者に大規模改修の期間や影響を告知しておくと空室を防ぐことに繋がるでしょう。

 

分譲マンション

分譲マンションで区分所有者が入居者の中心である物件で注意したいのがその高齢化です。

一定の収入がある年齢層が中心なら修繕積立金の極端な不足は起こりにくいですが、高齢化で年金暮らしになると滞納する入居者が増加し、大規模改修の延期が繰り返されたり必要な工事が省かれたりといった悪影響が出始めます。

大規模改修が滞れば住環境が悪化して空室が増え、資金不足や治安の悪化を招くといった悪連鎖を引き起こしてしまいます。

分譲マンションの中でも比較的築年数の経っている物件では、入居者の属性なども事前に把握できるのが理想です。

 

木造アパート

マンションが設立時の規約などで大規模改修を行うことが前提となっているのとは違い、木造アパートは一棟持ちのオーナーが大半で、その意向一つで改修時期や内容が決まるのが特徴です。

このため物件ごとで改修内容や時期に非常に差があり建物状態の開きが大きいです。

中には改修計画が未定や何年も予定のままで、20年以上何の改修も行われず痛みの激しいものも存在します。

木造アパートの購入を検討する際は大規模改修の履歴や内容はもちろん、実際の状態も確認し慎重に検討すると良いでしょう。

 

まとめ

大規模改修は建物の耐久性や安全性を保つため必要不可欠であり、適切な時期に行われていなければ、物件価値が下がるだけでなく突発的な費用負担を求められるリスクもあります。

また耐久性や耐震性に関わる部分は売却時の価値に、電気設備や外構・付属設備は入居者の退去率にも大きく影響するため特に確実な工事が必要です。

今回ご紹介した工事がどの工事回数で行われたのか、未実施なら次回は予定されているのか、そして大規模修繕に前向きな物件かなどを確認し、物件価値を工事の面からもしっかりと判断するようにしてください。

【記事監修】 山田 博保

株式会社アーキバンク代表取締役/一級建築士
建築業界での経験を活かした不動産コンサルティング及び建築、不動産に関わるWEBメディアを複数運営。Facebookお友達申請大歓迎です。その他、建築や不動産、ビジネスモデル構築に関するコンテンツは公式サイトより。

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