所有建物の設備更新の重要性は理解していても、その適切な時期や金額がわからず管理会社が言うままに行っているという方は非常に多くいらっしゃいます。
しかし、設備更新の妥当な周期や費用をご自身で把握できるようになれば、無駄な出費を省き物件からの収益を向上させることが可能です。
そこで今回は建物設備の標準的な更新時期と費用の相場を、建築のプロである一級建築士が詳しく解説します。
加えて地方公共団体の補助金活用や更新計画の見直し方法など、工事金額以外でも出費を抑えるテクニックをご紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
設備更新とは建物のオーバーホール
マンションなどの建物設備の状態を健全に維持することは入居者の住み心地を高め、さらに安全を確保するなど建物価値を守る意味で大きな役割を持ちます。
怠れば入居者は不満を抱いて退去してしまい、万一事故が発生すれば次の入居者を確保することすら難しくなってしまいます。
そこで設備に適切な時期に点検を行い劣化や不具合があれば解消するオーバーホールを行なわなければならず、これに当たるのが設備更新です。
しかし設備の種類は多岐に渡り、作業もそれぞれの専門業者が行うため、適正な時期や費用を把握することは一般の方には難しく、管理会社に提示された内容と金額で行っている方が大半です。
ただ管理会社の中には自社の利益を優先するあまり、まだ十分に使える状態であるにもかかわらず入替えを提案してきたり、マージンを過剰に上乗せして費用請求してきたりするところもあるため注意が必要です。
今回の記事を参考に妥当な設備更新を行い、建物価値を維持しつつ出費を削減するために役立ててください。
受変電設備:キュービクルの例
建物設備の中で比較的更新費用の大きいキュービクルを例に、その役割と更新時期の判断の仕方、そして費用の目安をご紹介します。
キュービクルの役割
キュービクルとは変電所から送られる高圧の電気を変圧し、建物内で使えるようにする受変電設備で、単に電圧を下げるだけでなく万一漏電やショートがあれば電気を遮断し建物内に支障が出ることを防ぐ役割も持ちます。
一般的に契約電力が50kw以上の中規模(80戸前後)以上のマンションにはキュービクルが設置されますが、この規模までなら建物内の借室電気室に電力会社が受変電設備を設置するため、維持管理費は電力会社の負担となります。
しかし共用部分だけで50kwを超えるような大規模マンションの場合は、自家用キュービクルも必要で維持管理はもちろん更新も管理組合=区分所有者の負担となり、エレベーターと並ぶコストのかかる設備です。
更新時期と費用の目安
キュービクルの耐用年数は概ね屋内設置で50〜60年、屋外設置で20〜30年となっており、状態チェックの上で更新が推奨されます。
特に屋内か屋外かで大きく年数が変わるため、所有する物件の設置タイプをまずは把握してください。
キュービクル本体の費用相場は建物の規模によっても変わりますが目安は以下の通りです。
これ以外に工事費が200万円〜の相場で必要となり合計すると非常に大きな金額になります。
キュービクル | 更新費用相場 | 建物規模 |
200KW | 300万円〜 | 中規模マンション(80戸前後) |
300KW | 400万円〜 | 大規模マンション(100戸以上) |
500KW | 600万円〜 |
もし積立金からの出費を抑えたいのであれば、管理会社の提案に従って入れ替えるだけでなく、設備専門業者に個別にキュービクルの状態を判断してもらい、部品交換や修理で対処できる可能性も探ることも検討すべきです。
インターホンの例
設備更新の例でもう一つ、インターホンの入れ替え工事について解説します。
マンションにおいては入居者の利便性、安全性を確保する上で必須の設備ですが、その更新においては時期だけでなく費用についても注意すべきものになっています。
インターホンの更新時期は標準を守るべき
インターホンの標準的な更新時期は設置後15年とされていますが、電気製品でありがちな個体によるばらつきがある点を留意しなければなりません。
特に設置場所が屋外に面しているとかなり速い段階で寿命が来るケースもあり、予算の都合などで先延ばしにするのは懸命ではありません。
特にエントランスのオートロックシステムが関連する劣化があれば、入居者の利便性だけでなく安全を損なう恐れまであります。
あまりに不具合が多発するようになれば退去者が出る恐れもあるため、更新時期を厳守するのはもちろん、状態によっては前倒しで行うことも考慮すべきでしょう。
費用相場と管理会社提案の注意点
インターホンの更新費用は、工事店が直接工事を請け負うケースであれば1戸当たり約10万円が相場です。
戸数が増えればスケールメリットによりわずかですが、1戸当たりの換算額は下がります。逆に、元が戸別のインターホンだけの建物をエントランスでのオートロックシステム付きに変更するとなると20万円〜の設備費+工事費(設置場所新たに作る場合は別途)がかかってきます。
ここで注意をしたいのが工事店に直接依頼した場合と違い、工事の窓口となる建設会社や管理会社を通しての依頼になるとマージンが上乗せになる点で、場合によっては2割以上増額になることもあり、戸数が増えると相当な差になります。
確かに工事店とやり取りをするにはある程度商品と工事の知識が必要となるため、建設会社を間に入れる意味は無くはありませんが、管理会社のマージンまでとなると疑問が残ります。
積立金に余裕があるという場合は別として、少しでも出費を抑えたいのであれば一度管理会社経由以外の業者の見積もりを取ることも検討すべきでしょう。
インターホンは誰が修理費を負担するか
通常インターホンは共用部分ですが、専用使用権が認められた設備のため、個別の故障などがあれば修理費を負担するのは区分所有者となります。
部屋のガラスやベランダなどと同様に管理維持の責任を負うからです。
ただしエントランスのオートロックシステムと繋がったインターホンでは、その不具合箇所によっては共用部分として負担が管理組合になることもあるため、一律には判断できません。
これらは管理規約で定められている物件もありますが、曖昧になっていることもあるので一度規約を確かめておくと良いでしょう。
もちろん賃貸に出して入居者が別にいる場合は、その者との契約内容にもよるので、こちらの規約や約款も併せて確認しておきましょう。
主な設備更新項目と時期・費用の目安
その他の主な設備更新の時期と費用の目安をご紹介します。
いずれも平成17年に国土交通省の発行した「マンション管理標準指針」を元にしています。
発行の年数が若干古いため、近年建築されたマンションは設備機器の進化で寿命が伸びている可能性も考慮すべきですが、築年数が10年以上の建物であれば現実的な目安にして良いでしょう。
更新設備 | 推奨交換年数 | 費用相場 |
オートロック+インターホン | 15年 | 500万〜(50戸規模) |
共用部照明 | 15年 | 300万〜(50戸規模) |
給水ポンプ | 16年 | 150万円〜(50戸規模) |
自動火災報知設備 | 20年 | 30万円〜(50戸規模) |
機械式駐車場 | 20年 | 150万円〜/台 |
受水槽交換 | 25年 | 120万円〜/式 |
屋内消火栓BOX | 25年 | 30万円〜/台 |
エレベーター | 30年 | 200万〜/台 |
給排水管更生 | 30年 | 50万〜/戸 |
設備更新で補助金を活用する
近年はマンションの積立金不足から適切な設備更新や改修が行なわれず、入居者の使い勝手や安全性の悪化が問題となっており、地方公共団体による補助金制度が増えてきています。
近々設備更新を計画しているならぜひ活用を検討してください。
地方公共団体の補助金事例
ここでは主に設備更新に適用できる補助金をご紹介します。
年度末に近付くと予算枠が申し込みで埋まり終了となる補助金も多いですが、年度をまたいで4〜5月ごろに新年度予算で再度施行される場合もあるため、定期的に確認することをお勧めします。
また設備更新以外にも建物本体の改修やバリアフリーなどの補助金制度を設けているところは多いため、何かしらの工事を計画しているなら一度担当窓口へ相談してみると良いでしょう。
稟議書や補助金提案書で促す
補助金を活用することは設備更新の費用を抑え積立金の残高を増やすことに繋がります。
結果として設備を新しくするだけでなく他の改修などへ資金をより多く回すことが可能となり、物件の住環境、資産価値の維持にも良い影響を及ぼします。
しかし活発な管理組合なら補助金の活用にも積極的になるかもしれませんが、形骸化した組合だと管理会社の提案をなぞるだけになってしまいます。
そこで稟議書や補助金提案書を作成し、定期の総会で議案となるよう働きかけることも方法の一つです。
理事会のメンバーに話しを通したり回覧などで周知したりするなどの下準備は必要ですが、補助金の活用自体にデメリットはないはずです。
将来的な資産価値の確保のためにぜひ一度提案してみることをお勧めします。
設備更新計画の注意点
建物の設備更新があるたびにその内容や金額が妥当か検討するよりも、事前に設備更新計画を確認し、引当金の額や更新内容が適切であるかをチェックした方が効率良く改善しやすいです。
そこで設備更新の計画書を吟味する上での注意点をご紹介します。
引当金の額は妥当か
引当金とは将来発生するだろう支出や損失に備える資金です。
マンションなどで言えば修繕積立金がそれに当たりますが、その金額が妥当かは投資収益を考える上で大きなポイントになります。
あまりに少なすぎて設備更新や大規模修繕が滞れば建物の価値を下げてしまいますし、逆に高すぎれば積立自体が集まりにくく将来の資金不足を招きます。
ここで一つの指針となるのが、国交省が2011年に発行した「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」において示された毎月相場の㎡当たり200円という金額です。マンションの主流である3LDKの平均的な面積65㎡に換算するとおよそ月々13,000円となります。
所有物件がそれより高額なら計画書などで使途や妥当性を確かめ、また少ないようなら将来的な増額の可能性をしっかりと確認する必要があるでしょう。
更新内容は現実的か:地域熱源の例
設備更新内容にはどのようなものが盛り込まれているかも一通り把握をしておきましょう。
中には将来的な地域開発を想定した更新もあり、現実的に行なうべき設備更新の予算が不足するケースもあります。
例えば地域熱源と呼ばれる冷暖房の熱源を供給する大規模な施設を造り、地域内にあるビルやマンションなどに一括供給をしてエネルギーコストを下げる計画があります。
しかし実現にはその地域に相当数の建物が集中している必要があり、都市開発計画を見越して設備更新の予算を組んでいたものの、計画自体が進まず絵に描いた餅に積立金を確保していた事例もあります。
管理組合の総会で計画が定期的に見直されているなら良いですが、作成当時の計画のままなら一度内容を吟味し、現実に即して見直す必要があるでしょう。
設備更新計画を見直す方法
設備更新計画はマンションであれば分譲時に建築主などによって作成されていますが、設備の状態や環境の変化、法改正などに合わせて5年に1度程度の見直しが推奨されています。
そこで区分所有者が見直しを理事会などへ提言するための準備をご紹介します。
線表(ガントチャート)の作成
設備更新計画を見直すならまず線表(ガントチャート)の作成をお勧めします。
線表は横軸が時間(年月日)縦に行う設備更新の項目を表記し、それぞれがいつ実行されるかを見やすくします。
これに前述した設備の適切な更新時期を当てはめて計画する訳ですが、設備ごとの更新時期を一覧で見られるため、改定する際も移動先で他の計画とのぶつからないように配慮がしやすいです。
また計画を実行する上で重要な積立金の予算配分についても、予想される残高と出費を書き込みながら計画することで、資金不足による延期などを回避することもできます。
設備更新の計画を見直す際には非常に役立つため、ぜひ作成し活用することをお勧めします。
設備更新のコンサルティング
設備更新の計画見直しにおいては、建築知識を持った専門家に相談することも検討してみましょう。
見た目である程度判断できる塗装などと違い、内部の状態や劣化具合は十分な知識が無いとわからず、一般の方にとって適切な設備更新の判断は正直難しい部分もあるからです。
例えばキュービクルのような存在自体が馴染みの無いものとなれば、どこをどのように調べたら良いかもわからないはずです。
もちろんメーカーや管理会社に計画の見直しや妥当性の検証を依頼する方法もありますが、利益を優先したアドバイスとなる恐れもあり客観的な目安とならない場合があります。
第三者の立場で判断をしてくれる専門知識を持った者に、調査や判断のコンサルティングを依頼しても良いでしょう。
まとめ
建物の設備更新は住み心地や安全性を十分なものにし、建物価値を維持するために非常に重要であり、しっかりと妥当な時期を見極め適切な予算で不足なく行う必要があります。
またキュービクルのようなライフラインにおいて重要なものや、インターホンのように安全性に直結するものなど、その設備ごとの役割もきちんと把握をしておくべきでしょう。
また管理組合に補助金の活用や計画の定期的な見直しを促し、さらには管理会社から提案された工事をそのまま行うのではなく、様々な選択肢を検討することも積立からの出費を抑えるために有効です。
適切な時期と費用の設備更新で限られた予算を有効活用し、建物の価値を維持してください。
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