その原状回復費用は妥当?費用相場と負担の範囲を徹底解説

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原状回復の費用相場をご存知ないと、賃貸経営で大きな損失を生みかねないため注意が必要です。

相場からかけ離れた回復費用を請求すれば借主に拒否される可能性が増すだけでなく、もし支払われなければそれを借主が負担することになります。

そこで今回の記事では原状回復の適正な費用相場や、借主・貸主が負担すべき損傷などの範囲を詳しく解説します

さらには原状回復費用の回収対策としての敷金活用や、経年劣化の一部を借主に負担してもらう特約などについてもご紹介していますので、コストとリスク低減のためにぜひ最後までご覧ください。

 

原状回復費用の相場

原状回復の費用相場を掴んでいただくために、まず主な工事にはどのようなものがあるのかとその相場、そして基準にしやすい部屋の規模ごとの相場をお伝えします。

初めはどのような工事項目があるかを大まかに知って頂き、その後に部屋の規模で相場を比較していく中で違和感があるようなら、工事ごとの費用相場を確かめて頂くという手順が確認しやすくお勧めとなります。

 

補修内容ごとの相場

まず原状回復の費用相場を工事内容別にご紹介します。

損傷の種類 費用相場
壁紙の張り替え 1,500円〜/㎡
壁や天井の傷補修(下地補修なし) 15,000円〜/1箇所
壁や天井の穴の補修(下地補修あり) 25,000円〜/1箇所
下地ボード張り替え 30,000円〜/1枚
フローリングの傷やシミ 15,000円〜/1箇所
フローリングの大きめなシミ 30,000円〜/1箇所
フローリングの張り替え 15,000円〜/㎡
畳の入替え 7,000円〜/畳
カーペット張り替え 3,000円〜/㎡
コンロ周り・換気扇の油汚れ 20,000円〜/1箇所
浴室のカビ取り 15,000円〜/1式
ペットのおしっこのシミ 50,000円〜
タバコのヤニや臭い(壁紙張り替え+エアコンクリーニングなど) 75,000円〜(8畳目安)

※損傷の範囲や程度によって変動。材料新規取り寄せなどが必要な場合は別途。

 

部屋サイズ別の相場

次に部屋のサイズ別に大まかな原状回復費用の相場をご紹介します。

 

住居用物件

住居用物件は部屋の大きさはもちろんですが入居者の住み方による金額への影響も大きく、例え小さめな間取りでも高額になることもあるため、以下はあくまで目安に留めてください。

特に単身者用の1Kでも借主が若かったり男性であったりすると住み方が荒く、比較的回復費用が多くなりがちです。

またファミリー向けは子どもの有無でも費用が変わりますが、家賃が高めの方が丁寧に扱われる傾向があります。

間取り 回復費用相場
1K 100,000円〜
1DK 120,000円〜
2DK 140,000円〜
3LDK 180,000円〜
4LDK 200,000円〜

※ 建物外装の回復費用は含まず。

 

店舗・事務所

まず店舗の原状回復費用は、使用していた業種とその設備によって大きく変わってきます。

例えば飲食を提供しない小売店や主に社員のみが利用する事務所は、汚れや傷などの損傷が比較的少なく費用が抑え目になります。

一方で飲食店などは、厨房はもちろん床や壁の油分や臭い、傷などの修復も加わり、回復にかかる費用は高額になりやすいです

さらに食事主体のレストランか酒類を主に提供する居酒屋などかによっても大きく変わり、特に後者は高額になることが多いです。

他にも喫煙の可否や来客の頻度によってもかなり費用が変化するため、飲食店は早い段階で概算の見積もりを知っておくと安全です

また室内を厨房や壁、床なども撤去するスケルトン工事が必要となると一気に費用は高額になるため、どこまでの回復を条件としているか契約内容もしっかりと確認するべきです。

規模 用途 平均坪単価
50坪未満 小売ショップ、事務所 坪2万円〜
飲食店 坪3万円〜
50坪以上 小売ショップ、事務所 坪5万円〜
飲食店 坪8万円〜

※設備や内装の撤去は別途

 

原状回復の負担範囲

原状回復の費用でポイントになるのが、どこまでを負担範囲とするかの判断です。

以下に現在一般的とされる定義と借主・貸主それぞれの目安をご紹介します。

 

国交省発行の原状回復ガイドライン

現在賃貸住宅の原状回復の費用負担範囲を判断するため、多くの借主・貸主に参照されているのが、国土交通省の発行する「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(※以降ガイドライン)です。

これは借主が法外な費用を請求されたり、一般的とされる範囲以上の回復を負担させられたりする被害が後を絶たなかったため、国土交通省が過去の原状回復についての裁判の判例をまとめ、判断基準をわかりやすく解説したものです

ここで示されている主なポイントは以下の2点となります。

①原状回復とは借主の故意、過失、善管注意義務違反、契約外の使用、などによる損傷を回復することであり、経年劣化や通常使用の損耗などについては既に家賃に含まれていると考え、原状回復の対象とはしない。

①原状回復とは借りた時の状態に戻すことではなく、その部位が通常の使用において劣化したであろう状態に戻すことを言う。

現実的には劣化状態に戻す工事は不可能なため、費用負担の範囲を以下に制限すべきとしている。

国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」より引用

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf

 

主な借主負担・貸主負担の例

ガイドラインで示されている借主貸主双方の代表的な負担例をご紹介します。

この他にも様々な具体例や判例が掲載されていますので、賃貸物件を所有されている方はぜひガイドラインの一読をお勧めします。

  • 借主負担

・壁の下地(ボード)の交換を要する穴

・タバコのヤニや臭い

・台所の壁の油汚れ

・結露放置によるカビやふやけ

・エアコンの水漏れによるカビやシミ

(貸主設置も含む)

・冷蔵庫下のサビ跡

・雨の吹込みによる床の変色など

・椅子のキャスター跡

  • 貸主負担

・家具の設置による床やカーペットのへこみ

・床や畳の日焼け

・建物の欠陥による雨漏りのシミ

・壁紙の日焼け

・テレビや冷蔵庫裏の壁紙焼け

・ポスターの日焼け跡

・エアコンのビス穴や日焼け跡

(借主設置も含む)

・画鋲程度の穴

 

耐用年数と負担割合

ガイドラインでは経年劣化により建物の部位ごとに価値が減っていくため、その程度を借主の負担割合に反映させるべきとしています。

例えば仮に耐用年数が8年の壁紙であれば、4年経過した状態であれば負担割合は50%となり、補修費用が30,000円なら負担額は50%の15,000円となります。

また耐用年数を経過すると部材や設備の価値は無くなるため負担額も1円としています

国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」より引用

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf

以前は部材ごとに耐用年数の目安が示されていましたが、近年は同じ材料であっても商品のグレードによって耐用年数が変わるため、一律ではなく個別に耐用年数を判断するようになっています。

この耐用年数と負担割合の関係は、請求額の算出の面で重要なポイントになるため、しっかりと把握をしておきたい部分です。

 

ガイドラインは多くの借主も参照

このガイドラインはネット検索すれば容易に読むことができるため、現代では多くの借主が参照するものになっており、あまりに適正範囲から外れた請求はすぐに不当だと判断されます。

しかもガイドラインは単なる行政の指針を示したパンフレットではなく、過去の判例を元にした解説書となっているため、そこから逸脱した請求を行い万一訴訟になれば、敗訴する確率が極めて高いことも意味しています

原状回復におけるリスクを減らす意味でも、ぜひ目を通して頂くことをお勧めします。

 

ハウスクリーニング費用相場と特約

退去した後の室内を専門業者にきれいに清掃してもらうハウスクリーニングは、内見に訪れた入居検討者に印象を良くしてもらうために確実に行いたい作業です。

そこでその費用相場と、本来貸主負担とされるその費用を借主に負担してもらう特約についてご紹介します。

 

部屋サイズ別の相場

部屋のサイズ別のクリーニング費用は以下の通りとなります。

これは傷やシミなどの原状回復が行なわれた後の施工であり、補修やペット、タバコの臭いなどの除去は含まれないのでご注意ください。

・居住用

間取り 費用相場
1K 20,000円〜
1LDK 40,000円〜
2LDK 50,000円〜
3LDK 60,000円〜
4LDK 80,000円〜

※建物内のみ

・店舗・事務所

面積 費用相場
〜50㎡ 70,000円〜
50〜100㎡ 100,000円〜
100㎡超 150,000円〜

※建物内のみ

設備による追加
厨房 70,000円〜
トイレ 15,000円〜/1箇所

 

ハウスクリーニング特約の条件

ハウスクリーニングは本来貸主負担とされていますが、特約によって借主に負担してもらうことも可能で、ガイドラインでも多くの判例が示されています

その特約を有効にするには以下の条件を満たした上で、書面化し契約前に借主に署名捺印してもらう必要があります。

①クリーニング内容を明確にする

例えば、床や壁、エアコン、トイレ、お風呂、キッチン、ベランダなどの清掃、あるいは床のワックス掛けなど、具体的にどこに何を行うかを明確にしておきましょう

また一般的にクリーニングと解釈されるものに限られるので、劣化した壁紙の張り替えのような経年劣化の回復を含まないよう注意してください

②具体的な金額を示す

ハウスクリーニングを行う際の具体的な金額を明記することで、より明確に借主にその費用負担を了承してもらった証明となります

ただし金額が極端に相場を上回るものではないことが条件です

③原状回復とは別の旨を明記

これは、もし訴訟などの争いになった場合に、ハウスクリーニングを借主が負担すべき原状回復工事の一部と誤解されないようにするための予防策となります。

 

原状回復費用の回収対策

ここからは借主が負担すべき原状回復の費用を確実に回収するための対策をご紹介します。

費用負担に納得せずトラブルになるケースを減らし、出来る限り原状回復を行ってもらうために役立ててください。

 

敷金・保証金の活用

敷金や保証金は相場として家賃1〜2ヶ月分を入居時に借主から預かり、家賃の不払いや原状回復費用に充てるもので、退去の際には必要な分を差し引き返還します。

しかし近年は新たな入居者を募る方策として、敷金ゼロにすることを提案する管理業者も多くなっています。

ただ敷金ゼロであれば退去時に借主は原状回復費用の全額を新規に用意することになり、金銭事情が苦しかったり負担範囲に納得できなかったりすれば、支払いを拒否する確率が一気に跳ね上がります

目先の入居者は確かに欲しいところですが、そればかりに目を奪われ結果的に原状回復費が回収できず、貸主が負担することになってしまえば元も子もありません。

空室が長引いている場合を除き、確実な費用回収のためにも敷金・保証金はしっかりと預かり、リスクに備えることをお勧めします

 

原状回復に経年劣化を含める特約

原状回復に経年劣化や通常使用による損耗を含める特約を付けることもある程度までは可能で、ガイドラインにはそうした特約についての判例がいくつか見られるため以下にポイントをまとめました。

①どの部分を負担してもらうかとその金額(相場を大きく上回らない)が明記されていること

②経年劣化や通常使用による損耗は本来貸主負担であることを説明すること

③経年劣化や損耗と原状回復に当たる損傷が実際には区分けしにくい損傷であること

(例:畳のすり減りなど)

契約に対する特約であるため、以上の点を書面化し契約前に説明の上で署名捺印をもらうことが前提となります。

もちろん劣化や損耗の一切を負担させようとする特約は無効となる可能性が高いので注意してください。

 

敷引き特約の注意点

一部の地域において敷金から一定額を退去時に差し引く「敷引き」という慣例がありますが、これも契約時に特約として条件などを明記しておくことをお勧めします。

敷引きは建物の権利金として捉えられ、その中には建物の損耗や経年劣化に対する負担金の意味も含むと考えられており、同様の判断をした判例も存在します。

ただしその敷引きに借主負担の原状回復費が含まれると借主が考え、敷引きと原状回復費用を別にしたい貸主とトラブルになる例があります。

これを回避するには、あくまで敷引きは建物の経年劣化や損耗に充てるものであり、原状回復費用は別であることを、契約時の敷引き特約で明記しておく必要があります。

特に慣例を知らない地域からの借主とはお互いのためにも、契約時にしっかりと伝え署名捺印を頂いておくべきでしょう

 

会計上の注意

原状回復の費用に関して会計上の注意点をご紹介する。

 

敷金から差し引く原状回復費用は消費税対象

借主に責務のある原状回復を、貸主が代わって工事手配することは役務を借主に提供することに当たります。

このため例えば20万円の敷金を敷金として預かり、そのうち10万円を借主が故意・過失などで付けた傷を回復する費用として差し引いたのなら、その10万円は課税の売上になり消費税の象となります。

差し引きのため見落としてしまうかもしれませんが、しっかりと納税するようにしましょう。

 

原状回復費の削減は資産除去債務で重要

資産除去債務とは、建物であれば補修や後々の解体、あるいは産廃の処分費など、法人が将来的に負うことになる費用のことです。

これには企業が事務所や店舗、社宅などで借りていた、建物を退去する際の原状回復の費用も含まれます

さらに平成20年に企業会計基準委員会によって、これらの資産除去債務を予め負債として計上し財務諸表に反映させることが設定されています。

つまり原状回復の適正価格を判断し、無駄を省いて削減することは企業の負債を低減することにも繋がるのです

仲介業者から送られた請求書の内容をしっかりと見極めることは、財務上も重要だと言えるでしょう。

 

管理会社からの原状回復費を削減するポイント

既に触れたように、管理会社や仲介業者の原状回復費が相場以上であることは借主とのトラブルの原因となり、万一貸主が払うことになれば必要以上の負担となります

もともとこれらの業者の一部には「多めに請求して支払われれば儲けもの、苦情が出たらその時考える」という慣習があり、貸主側もしっかりとした防衛策が必要です。

不当な高額請求をしていないか、削減できる項目は無いか探る上で、ぜひ以下の3つのポイントを確認してみてください。

①費用相場を知り請求額としっかり比較する

②負担すべき範囲を知り、不審な場合は業者に説明を求める

③回復工事が指定業者になっている場合は、念のため他業者の見積もりを取ってみる

たちの悪い業者は借主だけでなく貸主に対しても不誠実なことがあります

しっかりと相手を見極める手段や相談者を備えておくことをお勧めします。

 

まとめ

原状回復にかかる費用の妥当性を理解することは、借主だけでなく貸主においても非常に重要です。

国交省のガイドラインが一般にも浸透しつつある現代では、無用なトラブルと損失を未然に防ぐためにも管理会社に全てお任せでは済まなくなってきています。

さらに確実に原状回復の費用を回収する上では敷金の活用はもちろん、確実な内容の特約を設け借主に一部を負担してもらうことも視野に入れたいところです。

ただしその点でも相場に見合った価格であることがポイントになるため、しっかりと原状回復費用を比較・検討するようにしてください。

 

【記事監修】 山田 博保

株式会社アーキバンク代表取締役/一級建築士
建築業界での経験を活かした不動産コンサルティング及び建築、不動産に関わるWEBメディアを複数運営。Facebookお友達申請大歓迎です。その他、建築や不動産、ビジネスモデル構築に関するコンテンツは公式サイトより。

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